お話森の山小屋で (1/2) ―前半―
◆
あいことばは『入れて』
むかしむかし、ある国のかたすみに小さな村がありました。
その村はどこにでもあるごくごくふつうの村で、
村にはどこにでもいるごくごくふつうの子供たちが、
ごくごくふつうの暮らしをしていました。
さてその村のとなりに大きな森がありました。
その森は魔法の森でした。
その森のまん中には小高い丘があり、
丘のてっぺんには広場がひとつ ありました。
その広場は魔法の広場でした。
その広場のまん中に山小屋が一軒ありました。
その山小屋は魔法の山小屋でした。
その山小屋には小さなドアがありました。
そのドアにはかんばんが掛けてありました。
そのかんばんには魔法の文字でこう書かれていました。
「だれでもどうぞ。いつでもどうぞ。
ノックを3回してください。ドアが開きます。」
ドアのおくには小さな部屋がひとつありました。
その小さな部屋は魔法の部屋でした。
部屋の中では魔法の時間が流れていました。
部屋の扉には小さな貼り紙が魔法のピンでとめられていました。
その貼り紙には魔法の文字で
「合言葉は『入れて』です。
『いいよ』と返事が聞こえたら扉を開けてください。」
と、こう書かれてありました。
さあ扉を開けたらどんな楽しいお話が待っているでしょう。
◆
扉をあけたこどもたち
森には素敵なこと楽しいことがいっぱいありました。
ある日、村の子供たちはその森に出かけて行きました。
すると、森の中には魔法の小道がありました。
小道は子供たちがどんどん歩いて行くと
どんどん道ができました。
なぜってそれは魔法の小道だったからです。
その小道をどんどん行くと小高い丘が見えました。
その丘のてっぺんまで登っていくと広場に出ました。
その広場の真ん中に山小屋が一軒見えました。
子供たちは『よーい、ドン』と広場をまっすぐに突っ切りました。
息がハアハアする前にもう山小屋に到着しました。
なぜってそれは魔法の広場だったからです。
山小屋にはドアがあり看板が揺れて掛かっていました。
なぜ看板が揺れていたかというと
子供たちがみんな元気に走って来たからです。
大きな子供も小さな子供も
みんな声をそろえて看板の文字を読めました。
なぜ読めたかというとその文字は魔法の文字だったからです。
「だれでもどうぞ。いつでもどうぞ。
ノックを3回してください。ドアが開きます。」
子供たちはドアをノックしました。
『トントントン』
シャラリラ シャラリロ シャラランラン
と鳴りながらドアが開きました。
子供たちがドアの中に入っていくと
小さな部屋が一つありました。
部屋の扉には小さな貼り紙がありました。
その貼り紙は魔法のピンでとめられていました。
魔法のピンが小さくプルプルっとして言いました。
「あいことばをどうぞ」
子供たちは声をそろえて言いました。
「い・れ・て」
すると部屋の中から
「い・い・よ」
と返事が返ってきました。
子供たちはわくわくしながら扉を開けました。
◆
ティーパーティー
子ども達はわくわくしながらお部屋の中に入っていきました。
ちょっとばかり小さなお部屋です。
みんながいちどに入りきれるかなぁと心配しながら入りました。
ところが不思議なことにみんな一緒に入れました。
しかも、お部屋の中はちっとも窮屈でなくて、
広すぎもせず狭すぎもせず、
なんというか『ちょうどいい広さ』なのです。
小さなテーブルを挟んでベンチが二つありました。
「どうぞみなさん座ってください。」
とベンチが言いました。
みんなが一度に座れるかなぁと心配しながら座りました。
ところが不思議なことにみんな一緒に座れました。
しかもベンチはちっとも窮屈でなくて
硬すぎもせず柔らかすぎもせず
そのうえとても座り心地がいいのです。
テーブルの上には白い陶器のポットがありました。
「のどの乾いている人はいますか?」
とポットのふたがパタパタと訊きました。
「はーい」
「はーい」
とみんな勢いよく手をあげました。
するとどうでしょう。
不思議なことにその手のひらは
それぞれガラスのコップを握っていました。
ポットさんがちょっと胸を張って聴きました。
「何を飲みたいですか?」
お茶を飲みたい、ジュースを飲みたい、冷たいおみずがいい、
皆それぞれに好きなものを注文しました。
「はい、あなたはお茶ですね、紅茶ですか緑茶ですか?」
「あなたはジュースですね。 どんなジュースがいいですか?
え?『ブドウのジュース』お隣のあなたは『さくらんぼのジュース』
そしてあなたは『冷たいおみず』・・・はい解りました。」
とても不思議なポットです。
コップに注ぐ度に次々出てくる飲み物が変わります。
ガラスのコップはいろいろな飲み物で色とりどりに輝いています。
「では皆さんで『乾杯』をしましょう。」
「カンパ~イ!」
ごくごくふつうのこどもたちはゴクゴク喉をうるおしました。
不思議なコップでした。
もっとお代わりが飲みたいなって思って
「おかわり!」っていおうとすると
まるでコップの底から湧き出るように飲みたいものが増えているのです。
しかも、たっぷりお代わりの欲しい子にはたっぷりと、
ちょっぴり一口分だけ欲しいという子にはちょっぴり一口分だけ
多すぎもせず少なすぎもせず、ぴったりなのです。
そしてそれを飲み切ると体の中を爽やかな風が吹き抜けて
自分も風になったようないい気分でした。
「ごちそうさま」みんなコップをテーブルの上に置くと
コップはみるみる色がうすくなりポワッと見えなくなりました。
「それじゃあ、こんどはおはなしだよ。」
とテーブルさんの脚がカタリとタップダンスしました。
妖精さんの背負い籠
テーブルさんが子ども達にききました。
「妖精さんのお話をしようか?」
「ききたい」「ききたい」
「おはなしききたい」
子ども達は目をキラキラさせて答えました。
「それでは始めようね
ようせいさんのせおいかごというお話だよ。
ある時サニー坊やが私にこんな質問をしたんだ。
『ありがとうのことばがとどくのはなぜ?』
それはね、ありがとうの妖精さんが背中の背負い籠に
ありがとうを入れて届けに行くからだよ
『ごめんなさいのことばがとどくのはなぜ?』
それはね、ごめんなさいの妖精さんが背中の背負い籠に
ごめんなさいを入れて届けに行くからだよ
『ありがとうもごめんなさいも
ことばがとどかないときもあるよ。どうして?』
妖精さんが、ちょっとあわてんぼして
背負い籠の中に入れるの忘れて出かけたり
籠に入れた言葉を途中で落としたりして
籠の中身が空っぽになっていると
せっかく届けに行っても手渡せないのだよ
妖精さんの背負い籠にはふたがないんだ
だからことばをしっかり中に入れないとね
妖精さんも困っちゃうね
『せおいかごのなかにことばをしっかりいれたのに
とどかないときもあるのはなぜ?』
妖精さんはね、お家のドアや窓を
一度だけそっとノックするんだ。
けれどもね、ドアも窓も固く閉まっていると
開けてもらえないから手渡せないんだ
『どんどん・・・ってもっとつよくノックしたらきこえるよ』
そんなふうにノックしたらドアも窓も、
もっと堅く閉まってしまうことを妖精さんは知っているんだ
外側から無理やりあけようとしてもだめなのさ
ドアも窓も内側からしかあかないんだ
だから、そっとノックするのだよ
『どうしてようせいさんのせおいかごにはふたがないの?
ふたがあればことばがそとにおっこちたりしないよ』
それはね、背負い籠に蓋をするとことばが腐ってしまうのだよ
蓋をしたら呼吸ができなくなるからね。
いつも新鮮な風に触れているからことばはみずみずしいのだよ。
『ようせいさんのせおいかごってこわれちゃうことがある?』
時には壊れちゃうこともあるかもしれないね。
妖精さんにとって背負い籠はとっても大切な道具なのだ。
だから妖精さんは背負い籠の手入れを毎日しているよ。
籠が壊れそうになっているのを見つけるとすぐに直して、
また使っているよ。直すのがとっても上手なんだ。
『ようせいさんのせおいかごってどのくらいのおおきさなの?』
大きいのもあれば、小さいのもあるよ。
というよりも、ことばにふさわしい大きさに
大きくもなれば小さくもなる不思議な籠だよ。
『ようせいさんのせおいかごにはことばをたくさんいれられる?』
一度にあれもこれものことばは入らない。
大抵は一つ入ると満杯だよ。
けれども妖精さんは沢山いるから大丈夫さ。
子ども達は身を乗り出して訊きました。
「ねえ、ベンチさん。たくさんってどのくらいたくさん?」
そうだなぁ、数えきれないくらい沢山いるよ。
みんなのワクワクドキドキを全部合わせたくらい沢山だよ。
子ども達はベンチから立ち上がって
「わー、すごいなぁ」って叫びました。
~後半へつづく~
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