ばぶさんの 短い童話 その1  からっぽ(第3稿)

どんぽのばぶ

2014年06月07日 00:00

「いらっしゃいまっせー。」
お店屋さんのまいちゃんは楽しそう。
お客に来たしゅうちゃんはお店の中を見回して不思議そうな顔。
「ここなにやさんですか?」
まいちゃんがにっこりと答えます。
「からっぽやさんです。」
「からっぽひとつくださいな。」
「どんなからっぽがいいですか?」
「どんなからっぽがありますか?」
「おおきなからっぽからちっちゃなからっぽまで
いろいろいろあります」
リュックの中をガサガサ探して
「それじゃぁ、このおべんとうばこにぴったりのからっぽください」
「ありがとうございます。どんないろのからっぽにしますか?」
「どんないろのからっぽがありますか?」
「どんないろのもあります。」
「じゃあ、ピンクのからっぽください」
「はい、かしこまりました。
えーと、どんなにおいのピンクがいいですか?」
「おはなのにおいのピンクをください」
「はい、かしこまりました。えーと、
あまいのと、すっぱいのと、にがいのと、しょっぱいのと あります。
どれにしますか?」
「う~~ん。あまずっぱいのはありませんか?」
「ええ~と、ごめんなさい。あまずっぱいのうりきれでーす。」
「うりきれですかぁ。あまずっぱいのがよかったんだけどなぁ」
「だいじょうぶです。いまからつくれますから、
ちょっとまっていてくれますか。」
「わーい、うれしいな。」
「では、このおなべのなかに、あまいのとぉ。それから・・・、
すっぱいのをいっしょにいれてぇ、かき・まぜ・まーす。
はーい、できあがりでーす。
ちょっとあじみしてみてください。どうでしょうか?」
しゅうちゃんは舌をぴちゃぴちゃ鳴らして味見しました。
「うーん、ちょっとあますぎです。」
「あますぎですか、それではすっぱいのをすこしたしてみますね。
あっとっと、たいへん、たいへん。ちょっといれすぎちゃいました。」
しゅうちゃんは小指で鍋のふちをさらってペロリ。
「あれ、さっきのとちっともあじがかわりません。」
「えっ、そうですか? かきまぜ方がたりなかったからかしら。
ちょっとまってください。ぐるぐるぐる、ぐるぐるぐる」
まいちゃんは腕まくりをするとお鍋の中をかきまぜました。
「ちょっとたいへんそうですね。」
「ええ、これってちからがいるんです。」
「おなべもっているのてつだいましょうか?」
しゅうちゃんはお鍋がぐらぐらしないように両手で支えました。
「わぁ、たすかります。ありがとう。
ぐるぐるぐる、ぐるぐるぐる。はぁ。」
「だいじょうぶですか?」
「あせがめにはいりました。すみません。
ちょっと、ぐるぐるこうたいしてくれますか?」
「ええ、いいですよ。ぐるぐるぐる、こんなかんじでいいですか?」
「うわぁ、あなたじょうずですね。」
まいちゃんに褒められてしゅうちゃんは嬉しくなりました。
「それほどでもないですよ。ぐるぐるぐる、ぐるぐるぐる。」
「いやぁ、あたしよりもだんぜんじょうずです。」
「そうですか?ぐるぐるぐる、ぐるぐるぐる」
「けっこうちからがいるでしょう。だいじょうぶですか?」
「ええ、だいじょうぶです。ぐるぐるぐる、ぐるぐるるるるるぅ」
「なんか、さっきよりもだんだんスピードがでてきていますよ。」
「そうですかぁ?。ほんきでやったら もっとスピードでますよ。
ぐるぐる るるるる ぐるぐる るるるる
ぐるるる るるるる るるるる るるるる うんうんうーんうん」
「ストーップ」
「きゅきゅぅうううう。」
やっとかきまぜるのを止められてしゅうちゃんはほっとしました。
「わーっ、きれいなピンクいろになっていますねぇ。
わーっ、あなたのほっぺもきれいなピンクです」
「いやぁ、ちょっとだけくたびれました。」
「そうでしょう。そうでしょう。おみずいっぱいいかがです?」
「ありがとう。ごくごくごく。おいしかった。ごちそうさま。」
「ちょっとあじみしてみましょう。ぺろり・・・うう~ん」
「どうですか?」
「あなたもあじみしてみてください。はいどうぞ」
「ありがとう。ぺろり・・・うう~ん」
ふたりはいっしょにいいました。
お・い・し・い~~。」
「とってもじょうずにできました」
「こんどはぼくがおみせやさんになりたいです。」
しゅうちゃんはリュックをまいちゃんに渡しました。
「いらっしゃいませ。
おいしいからっぽいかがですか?」
まいちゃんはリュックを背負うと
「くださいな。あら、このおなべのなか、からっぽですよ。」
「ほんとうだ、からっぽですね。
それじゃあ、いまからとびっきりおいしいのつくっておきますよ。」
「じゃあ、あたしはそこらへんをぐるりとひとまわりして
あとでもういちどきますね。」
「ええ、いってらっしゃーい」
                       
~お・し・ま・い~

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