お話森の山小屋で(2/2) ―後半―

◆ヴァムじいちゃんと革の靴 「おや、君の履いているその革靴は…? 前にどこかで見たことがある靴だぞ。君は?」 「これ?おばあちゃんからもらったの。あたしの名前はセリーヌ。 おばあちゃんが いまのあたしくらいのおんなのこだったときに おばあちゃんのおとうさんがつくってくれたんだって。」 「すると君はヴァム・ルッシュボーンさんのひ孫というわけだ。」 「あたしのパパは『ヴァムじいちゃん』っていっているわ。 テーブルさんひいおじいちゃんのことしっているの?」 「知っているどころか、このテーブルの私を作り直してくれたのも ヴァム・ルッシュボーンさんなのだよ。」 「ひいおじいちゃんのはなしききたい。」 「それじゃあ、そのヴァムじいちゃんのお話をしようね」 「あれはまだヴァムさんがカテリーナさんと結婚して7年目。 ターニャが5歳の誕生日を迎える一週間前だった。」 「カテリーナさんてだあれ?」 「カテリーナさんは君のひいばあちゃん。ターニャは・・・」 「わかった、あたしのおばあちゃんのことね。」 「そうとも、そのとおり」 「へえ~おばあちゃんにもなまえがあったんだ。ぼく・・・」 「おや、君は・・・」 「あたしのおとうと。ジョーイよ」  「ぼく、おばあちゃんって 『おばあちゃん』っていうなまえかとおもってた。」 「はっはっは、だれにもなまえはあるよ。すてきななまえがね。 さて、お話をつづけよう。」 「ききたい、ききたい。」 「ヴァムさんはターニャが5歳になる一週間前の朝、 『うん、これだ。5歳のプレゼントはこれにしよう。』 とっても素敵なことを思いついた。 『お早う、ヴァム。どうしたの?とってもうれしそうね。』 『やあ、カテリーナ。おはよう。 ターニャの5歳の誕生日のプレゼントのことさ。 何にするか決まったんだ。これさ。』 ヴァムさんは、自分の履いている破れかかった革靴のつま先を パクパクさせながら言ったんだ。 『ターニャに靴を?パーチのお店で買うの?』 『いいや、買わない。自分で作るのさ?』 『あなたが自分で靴を?作ったことあるの?』 『一度もない。けれど作ってみようって思ったのさ。』 『靴を作るなんて難しいんじゃない?できるの?』 『多分、難しいだろうな。・・・でもね、ほら、 さっきからこの靴もぱくぱくとしゃべっているじゃないか。 できるかできないかなんてやってみないとわからないさ。ってね。 この靴が作り方を教えてくれるよ。』 それからヴァムさんは七日七晩かけて  サクサク ジョキジョキ コツコツ トントン キュッキュッキュ。 そして、靴は完成した。 私はその時の話をヴァムさんに聞いたことがある。 『ヴァムさん、どうやってあの靴を作ったんだい?』 『まず始めに、自分の履いていたパクパク靴を丁寧に分解した。 そして、隅から隅まで注意深く見たんだ。そして解った。 なーるほど、靴っていうのはこういう風にできているんだ・・・。 それをお手本にまさに みようみまね でじっくり慌てず、 ひと針ひと針縫いあげた。 靴を作ろうって閃いたときから、靴が仕上がるまでの間のことだ。 何度も不思議な体験をした。』 『不思議な体験ってどんな体験?』 『何か閃いたり、思いついたり、発見をするたびに 不思議な何かが、私の周りをくるくると廻るんだ。 よく見ようと手を止めると何も見えない。 けれども、何かがくるくる廻っているのを感じるんだ。 そして、聞こえるんだ。彼らの熱烈な拍手の音をね。 正確にいうと実際には聞こえないんだが感じるんだ。』 『彼らって、誰?』 『ものづくりの妖精さんたちだ。』 ◆ものづくりの妖精さん 「ねえ、ねえテーブルさん」 「テーブルさんてばテーブルさん」 「あのさ、うんとさあ・・・」 子ども達はいっぺんにしゃべり出しました。 「ちょ、ちょ、ちょっと待った。」 「ようせいさんってまほうつかい?」 「ようせいさんってどんなときにくるの?」 「ようせいさんどっからくるの?」 「いろんなようせいさんがいるの?」 子ども達はわれさきにと質問をしました。 「質問は一人ずつだ」 「ようせいさんってまほうつかい?まほうをつかえる?」 「いいや、魔法使いではないね。 ちょっと魔法使いみたいなところもあるけれど・・・ もしかしたら魔法を使えるのかもしれないけれど 魔法を使っているのは見たことないなぁ。」 「それじゃあどんなことできるの?」 「さっきもちょっと話したけれど、一生懸命考えて すてきな言葉が閃いたり、 何か素敵な考えややり方を思いついたり、 今まで気が付かなかったことに気づいたり発見したりするたびに 妖精さんはその人のすぐそばに来て小さな拍手を贈るんだ。 そしてその人の周りを嬉しそうにぐるぐる廻るんだ。 その閃きややり方をその人が試して それがうまくいけばいくほど妖精さんの数も増えて大拍手。 妖精さんたちは熱烈な拍手をしながらぐるんぐるん廻るんだ。 その拍手を浴びると不思議と元気が身体中にみなぎってくる。 時には思わず「絶好調!」なんて自分を褒めながら ものづくりしているヴァムさんをみたことも何度かあったなぁ。」 「ようせいさーんってよんだらきてくれるの?」 「いいや、妖精さんは呼んでも来てくれないし、 いついつ来るよなんて約束もしない。 とっても気まぐれなんだ。」 「ようせいさんってどっからくるの?」 「さ、どこから来るんだろうねぇ。 何処から来るかではなくて、多分…」 「たぶん。なあに?」 「多分、みんなの身体の中に最初っからいるんじゃないのかなぁ。」 「さいしょっからいる?」 「そう、最初っからいるんだけれども大抵眠っている。だから・・・」 「だからなあに?」 「だからなかなか気が付かないんだ。 妖精さんが目覚めてすぐそばを拍手しながら ぐるぐる回っていても気がついていない人が沢山いると思うよ。 目には見えないからね。 『あっ、今、妖精さんがすぐそばに来てる』 って感じる人だけが妖精さんと会話できるんだろうね。 会話と行っても妖精さんはおしゃべりはしない。 ぐるぐる廻ることと拍手で表現するだけだから、 それがきっと妖精さんの言葉なんだろうと思うよ。」 「いろんなようせいさんがいるの?」 「ものづくりの妖精さんのほかにも・・・。 ことばの妖精さん。 お話の妖精さん。 歌の妖精さん。 楽器の妖精さん。 ダンスの妖精さん。 絵や彫刻の妖精さん。 お部屋の妖精さん。 森の妖精さん。 大地の妖精さん。 空の妖精さん。 水の妖精さん。 光と影の妖精さん。 ありとあらゆる妖精さんがいるんだよ。」 ◆あそびの妖精さん 「ねえ、てーぶるさん」 「何だい?」 「あそびのようせいさんっていないの?」 「おっと、肝心な妖精さんのことをすっかり忘れていたよ。 どうして忘れていたかなぁ。ふぅ〜む・・・。」 「ねぇ、いるの いないの どっちなの?」 「いるとも、いるとも。 子供にも大人にも実にたくさんの妖精さんがね。 だが、どうして忘れていたかなぁ・・・。」 そのままテーブルさんは黙り込みました。 子供たちは口をぽかんと開けてお話を待ち続けました。 静かな時間が ゆっくりと緩やかに流れました。 テーブルさんは何かを話出そうとしているのですが ずっと黙ったままです。 その様子はさっきから懸命に言葉を探しているといった風で、 それでいて言葉が見つからないらしいのです。 そして時間はまるで止まったかのように動かなくなりました。 「はくしょん。」 とジョーイが小さなちいさなくしゃみを一つしました。 「あそびの妖精さんはね、 ほかの妖精さんたちのとはちょっとばかり違うんだ。 くるくる廻ったり拍手をしたりすることもあるけれど、 それよりも明るさを増すというか・・・かがやくんだ。 身体の内側から外側に向かってかがやきを増すんだ。 大人たちのかがやき方にはうねりや揺らぎがあるんだけれどもね。 特に君たち子どもの場合にはその輝き方がまっすぐなんだ。 一方大人の場合はかがやきを増すというよりも むしろ色艶が深くなるとでも言った方が似合うかな。 どうかな、この説明でわかったかな?」 「あまりよく・・・わからない」 「そうか、『あまりよく解らない』か。 では今日はここまでにしておこう。 きっと私自身がまだよく解っていないから、 私の中で言葉が熟成していないんだ。 だから君たちに伝えきれないんだなぁ。 ううぅ〜ん。 これは私の宿題にさせてもらおう。 解ったつもりでいたが、まだまだだね。 そのことに気づかせてくれた君たちにありがとう。」 「はくしょん」 またひとつジョーイがちいさなくしゃみをしました。 「空気が少し冷えてきたんだ。 おや、ここを見てごらん」 テーブルの上のポットのふたをオレンジ色の光が染めています。 光の源をたどっていくと、西の壁にちいさな節穴が見えました。 かわいらしいハート形の節穴でした。 「もう日が暮れるという知らせだ。 そろそろお家へお帰り。」 「ありがとう、たのしかったよ。またくるね。」 「ああ、いつでもおいで、待っているよ。」 「さようなら」 「さようなら」                               ~お・わ・り~


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