『まーだ だよ』
「もう いーかい?」
担任の馬場ちゃんが子供たちに呼びかけます。
子どもたちはてんでに答えます。
「まーだ だよ」
「もう いーかい?」
「まーだ だよ」
「もう いーかい?」
「まーだ だよ」
「もう いーかい?」
「まーだ だよ」
もう一度訊いたら十回目の
「もう いーかい?」です。
けれども子供たちは「まーだ だよ」っていいながら
にこにこにこにこ園庭中を走り回っています。
『どこか素敵な隠れ場所はないかな?』って
キョロキョロ探しながら走っている子。
走っているのが楽しくてたのしくて、タッタカッタッタターの子。
『まーだ だよ』っていうのが嬉しくってうれしくって、よだれがキラリとひかった子。
まだ誰も隠れていないけれども
かくれんぼはとっくに始まっているのです。
「私もいーれーてっ」
と低い声でもう一人の担任の山路さんが言いました。
「いいーよっ」と子どもたちが答えました。
子供たちは山路さんのことを『やまんじい』と呼んでいます。
「やまんじいもかくれて」と子どもたちが言いました。
「もう いーかい?」
と若い馬場ちゃんがよく通る張りのある声で呼びかけました。
「まーだ だよ」
子どもたちとやまんじいが答えます。
「♪もう いーかい?♪」
と馬場ちゃんがオペラ歌手みたいに
晴れやかに歌いながら呼びかけると、
やまんじったらお坊さんのお経のように
「♪もぉう ちょっとぉ~~だよ・チーン♪」
と 唱えながら走りました。
子供たちはゲラゲラ笑いながら
「♪もぉう ちょっとぉ~~だよ・チーン♪」
と真似っこしました。
その時砂場のところまでかけていったえいちゃんが
なんと砂場のバケツを頭にかぶって
「もういいよ」と答えました。
それを見てあっくんも、うーたんも、いっちーも、
おおちゃんも、そしてしいちゃんも、よっちゃんも、
すぐにえいちゃんの真似っこをしてバケツを頭にかぶりました。
やまんじいもバケツをかぶってみましたが、顔がでっかいのでちっとも隠れません。
こりゃ大変だとやまんじいったら砂場の傍のベビーバスを頭にかぶりました。
みんなは声を揃えて言いました。
「もう いーいよっ」
馬場ちゃんは得意のトロルの声で
「うっふっふっふっふぅ。どこにかくれたかなぁ。」と探しに来ました。
みんなは息をひそめてじっとしています。
足音がだんだん近づいてきます。
みんなはもっと息を潜めて石ころのようになりました。
「みーつけた」
「だはははは」ってみんな大笑いしました。
~お・し・まい~
※12回連続、それぞれ独立した短編です。
「もっと・みじっかいばぶさん童話」です。
名づけて『短短童話』今回はめでたくその最終回。
最後までお付き合いありがとうございました。