12の短短童話  その9 「なつみかんくんころころ」

なつみかんくんころころ
   なつみかんの木がおじいさんちの庭にありました。
毎年たくさんの実がなりました。
けれどもだれもその実をとりません。
なつみかんの実はポトンポトンと庭に落ちました。
その木の根元は黄色で埋め尽くされて美しく光りました。
垣根のフェンスを大きくのりこえた枝先で
大通りの車がいったりきたりするのをいつまでも見ていたくて、
なつみかんくんがひとつ 枝にしがみついていました。
「はくしょん」
とうっかりくしゃみをしたひょうし
なつみかんくんは
「あららっ」
ぴゅーっと歩道に落ちました。
こつん
歩道は「いてて」といいました。
「てへへへへっ」
なつみかんくんは照れくさそうに笑いました。
なつみかんくんは歩道をころげて車道に落ちました。
ぽとん
車道は少し下り坂でした。
大きなトラックやバスが通ります。
車道は踏まれたって負けるもんかと踏ん張って
そのたびぶるるんるんと揺れました。
その小さな揺れがまるい実の中に
ぷるるんるんと集まってなつみかんくんはぱんぱんになりました。
ごろ ごろ ごろん
ごろん ごろん ごろん
「あはははは、これはゆかいゆかい」
となつみかんくんは面白がりました。
坂道はずぅ~と続いています。
だんだんスピードが出てきました。
ごろん ごろん ごろろろろ
「うわー、だれかとめてぇー」
となつみかんくんはいいました。
交差点で左に曲がるトラックに
べしゃと踏まれてなつみかんくんの実がはじけました。
ぺしゃんこになったなつみかんくんはもう転がれません。
「でへぇっ」とくちをあけて青い空をみあげました。
しばらくのあいだ車が一台も通りませんでした。
ぱたぱたぱたぱた。
ムクドリが一羽とんできて
なつみかんくんの実をちょんちょんと食べました。 「おいしーかい?」
となつみかんくんがムクドリにきくと
「うん、まあまあだね。
なかまにおしえてあげよう。ごちそうさま。」
ぱたぱたぱたぱた、ととんでいっちゃいました。
               
~お・し・まい~
※12回連続、それぞれ独立した短編です。
「もっと・みじっかいばぶさん童話」です。名づけて『短短童話』今回はその9回目どうぞよろしく。


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