じゃーじゃー蛇口
ぽた ぽた ぽた ぽた・・・
「ほら、もっとちゃんとじゃぐちしめてぇ。あーあ、いっちゃった。」
テラスの水道の蛇口くんはつぶやきました。
ちゃんと締めないとお水がぽたぽたたれますよ。
このままだと僕のせいになっちゃうよ。
ぽたぽた ぽたぽた。
蛇口君は『はぁ』とちいさなため息をつきました。
毎日子どもたちが蛇口くんを開けたりしめたりします。
おや、誰かきましたよ。
きいちゃんとこっちゃんだ。いつもの二人です。
砂場のままごと道具のプリンカップとシャベルをもっています。
こっちゃんたらシャベルで蛇口をぺしょぺしょぺしょ。
いつものあそびです。
これが始まるとしばらく続きます。
あれ、こっちゃんたらシャベルに溜まったお水を
ずずずずぅ。
飲んじゃった。それどろみずだよ。
「おいしい?」
「うん、おいしいよ。きいちゃんもやってごらん。」
きいちゃんはプリンカップを蛇口にくっつけました。
ぽたぽた ぽたぽた。ぽたぽた ぽたぽた。
頭をまげて横からカップをのぞきます。
なかなかお水はたまりません。
きいちゃんは蛇口をあけようとしましたが、
蛇口くんはがんばってあけさせません。
「ぼくがやったげる」
こっちゃんが蛇口を開けようと力をいれました。
『きゅっ』
蛇口は元気に開いたのですが、元気過ぎたので
お水はカップをとびだして、ちっともカップの中にたまりません。
きいちゃんがカップを蛇口に押し付けた途端。
あたり一面水浸し。
きいちゃんの服もこっちゃんの服もびしょびしょ。
テラスもびしょびしょ。スノコもびしょびしょ。
二人は大笑いです。
だってこんなにびしょびしょなんですもの。
遠くの事務室の窓から身を乗り出して
「あらあら、たいへん。たいへん。
きいちゃーん。おみずとめてぇ」
と、園長さんがいいました。
きいちゃんは蛇口にさわりましたが、
さっきよりもお水が勢いよく出てきました。
「きいちゃん。はんたい、はんたい。」
ふたりは『はんたい』の意味が解らずきょとんとしています。
園長さんは両腕を上げると右腕を下げて
「こっちのてでやるのよぉ」といいました。
きいちゃんは左手で蛇口をきゅっと締めました。
お水はぴたりと止まりました。
きいちゃんもこっちゃんも蛇口くんも
みんな「ほっ」としました。
~お・し・まい~
※12回連続、それぞれ独立した短編です。
「もっと・みじっかいばぶさん童話」です。名づけて『短短童話』今回はその5回目どうぞよろしく。